|
|
ぴぃぷ たいらなぎ
「……なあ。」
「あ?」
「ちょっとやばくないか?」
「なにが?」
「女として、おまえが……。」
その部屋には、一組の男女がいる。
男の方は、まさに今から外出しようとしているような、それなりの格好にて、部屋
の入口付近に立っている。
女の方は、まさに今目が覚めたというような格好で、布団の上で胡座をかいてい
る。
六畳程度のその部屋だから、二人の距離はさほどない。
女の頭頂部を眺めながら、男は短く息を吐く。
「俺、言わなかったっけ?十時に迎えに来るって。」
「んー……、聞いたかも。」
男の方に目もやらずに、女はテレビの主電源を入れる。
「だったらなんで、おまえは、そこに座ってるんだよ。……今、午前十時二十三分
回ったところだぞ。」
「寝たの、八時だし。」
「PM?……なわけないな。」
「なわけないよ。」
男は溜息をつくと、その部屋から続く台所へと歩み入り、冷蔵庫の中を物色する。
「カズヒトー。」
「なんだや。」
「こーしーめるく、飲みたい。」
「……かしこまりました、ゆざさ姫。」
戻ってきた男の手には、こーしーめるくの飲みきり紙パックとオレンジジュース入
りのペットボトル。
「あんがと。」
「どういたしまして。」
女の横に腰を落ち着ける男。
男の横でテレビゲーム機を引き寄せる女。
「この範囲で行動してんの?」
「よく分かったね、ほめたげる。」
「わからいでか……。」
女を中心に、歪なドーナツ状にモノが散乱している。
雑誌、扇風機、リモコン、ゲーム機、電話……、それらが、十センチと腰を浮かす
ことなく手の届く範囲に置かれている。
女は、おそらくは数時間前までと同じように、ゲームに没頭し始める。
男は手近な雑誌に手を伸ばす。
「……なあ、ゆざさ。」
「んー?」
「キスしよか。」
「夕べから、歯磨いてないから、だめ……。」
(終)
|
|